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特定行政書士とは?行政書士と何が違う?

2025/12/12
田原 靖弘
8 min read

💡 この記事の要点 (Key Takeaways)

「特定行政書士」は、不当な行政処分に対して「不服申立て」ができる国家資格者です。通常の行政書士との違いは、理不尽な許認可取り消しなどに「NO」と言える法的権限にあります。「不支給決定の取り消し」など、市民の権利を守った実例と共にその価値を解説します。

導入:もしも、あなたが「理不尽」に直面したら?

一生懸命準備して提出した申請が、理由もよく分からないまま「不許可」になった。そんな経験はありませんか?あるいは、役所の窓口で「この書類がないと受け付けられない」と、法律には書かれていないはずの要求をされたことは?

このような行政からの理不尽とも思える決定や対応に直面したとき、多くの人は「お役所相手では仕方がない」と泣き寝入りしてしまうのが現実かもしれません。しかし、そんな市民の「困った」に寄り添い、行政の決定に対して法的な手続きを通じて「NO」と言える専門家がいることをご存知でしょうか。

その名も「特定行政書士」

彼らは、私たちの権利を守るために、行政の決定に異議を申し立てることができる、いわば「行政手続きのスペシャリスト」です。この記事を読めば、彼らがどのような想いを持ち、どうやって市民の味方となるのか、その物語がきっとわかるはずです。


1. 「特定行政書士」って、どんな人?ある若手行政書士の物語

この物語は、ごく普通の若手行政書士が、ある悔しい経験をきっかけに「特定行政書士」という存在の本当の意味に目覚めていくお話です。(出典:特定行政書士業務ガイドライン 第3版『秋桜日記』)

1-1. 悔しい思いと、師匠の言葉

「取り下げなんてしません。不許可にしていただいて結構です!」
開業3年目の行政書士、中島涼介は、役所の窓口でついカッとなってしまった。法定の添付書類は揃っているはずなのに、担当者から「窓口指導」と称して申請の取り下げを求められたのだ。悔しさと無力感がこみ上げる。

事務所に戻る気にもなれず、中島は師匠と仰ぐベテラン行政書士、山田賢人先生の事務所へと向かった。

「ふんふん、なるほどね。それは不許可になるだろうね。」

中島の話を聞き終えた山田先生は、あっさりとそう言った。

「えぇっ!じゃあ、もう終わりなんですか…?」
「そんな大袈裟な。不許可の処分をきちんと受けて、不服審査をすればいいだけさ。」

弱気になる中島を見て、山田先生は力強く語り始めた。

「中島君、我々行政書士の存在意義を思い出してごらん。行政書士法第1条には、その目的が『国民の権利利益の実現に資すること』だと書かれている。君がここで取り下げてしまったら、依頼者の権利実現を諦めることになるんじゃないか。そのために不服審査制度があるんだ。」

しかし、中島はまだ特定行政書士ではなかった。不服申立ての代理人にはなれない。山田先生の言葉が胸に刺さるほど、自分の無力さを痛感するばかりだった。

1-2. 同僚との対話:「それって本当に仕事になるの?」

その週末、中島は同期の野村と居酒屋にいた。役所での一件と、山田先生から教わった特定行政書士の理念を熱く語る中島に、野村は冷ややかな視線を向けた。

「おいおい、役所と喧嘩してどうするんだよ。それに、不利益な処分が覆ることなんてほとんどないだろ?裁判でさえそうなんだから。そんなの、仕事にならないよ。」

野村の言葉は、多くの人が抱くであろうもっともな疑問だった。特定行政書士という資格が、本当に実務で役立つのか。中島は山田先生から学んだ理念を伝えようとするが、二人の意見はすれ違うばかりだった。

1-3. 「入口から出口まで」寄り添う専門家

野村との会話で生まれたモヤモヤを抱え、中島は再び山田先生を訪ねた。そこで山田先生から語られたのは、特定行政書士の本当の価値だった。

専門性の深化

「不服申立てを学ぶということは、普段の許認可業務でも、常に法的根拠を意識するようになるということさ。なぜこの書類が必要なのか、なぜこの要件が定められているのか。それを深く理解することで、行政手続の専門家として、君自身の実力が格段に向上する。」

依頼者の安心感

「そして何より、依頼者にとって『入口から出口まで』一貫して寄り添える存在になれる。申請(入口)から、万が一不許可になったときの不服申立て(出口)まで、すべて任せられる。これほど依頼者にとって心強いことはないだろう?」

顧問業務への発展

「許可を取ったら終わり、じゃない。事業を運営していく上での様々な行政手続きの相談相手となり、依頼者と長期的な関係を築いていける。それこそが、我々が目指すべき姿じゃないかな。」

山田先生の言葉に、中島の目の前がパッと開けた気がした。特定行政書士とは、単に行政と争う専門家ではない。より深く、より長く、依頼者の事業と人生に寄り添うための資格なのだ。

「先生、僕、なります。特定行政書士に!」

山田先生の胸元で輝く、一回り大きな金色のバッジ。それが、自分の目指すべき未来の象徴に見えた。

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このように、特定行政書士は単に行政と争うだけでなく、より深く依頼者に寄り添い、行政手続き全体を支える専門家なのです。では、具体的にどのような場面で活躍するのでしょうか。


2. 特定行政書士が誕生した背景とその社会的役割

新たに決意を固めた中島に山田先生が語ったように、特定行政書士制度は、2つの重要な社会的役割を担うために作られました。ここでは、その制度がなぜ生まれたのか、そして社会でどのような役割を期待されているのかを解説します。

2-1. 特定行政書士制度とは?

特定行政書士制度は、平成26年の行政書士法改正によって誕生しました。 これは、行政書士の中でも、日本行政書士会連合会が実施する法定の研修課程を修了し、考査に合格した者だけがなれる、いわば「行政不服申立てのスペシャリスト」です。

これまで行政書士は、許認可申請などの書類作成が主な業務でしたが、この制度により、行政庁の決定に対する不服申立ての手続きを代理できるようになりました。これにより、法律の専門家としての役割がさらに広がったのです。

2-2. 市民の権利を守る「最後の砦」

行政不服審査法の目的の一つに、「国民の権利・利益の簡易迅速な救済」が掲げられています。
裁判は時間も費用もかかり、一般市民にはハードルが高いのが現実です。それに対し、行政不服審査制度は、より手軽で迅速に権利救済を図るための仕組みです。
特に重要なのは、この制度が、処分の「違法性(法律に違反しているか)」だけでなく、「不当性(法律違反とは言えないが、裁量の行使が妥当性を欠いているか)」まで審査できる点です。特定行政書士は、この「不当性」の主張・立証において中心的な役割を担うことが期待されており、理不尽な決定から市民を救う、社会にとって不可欠な存在と言えます。

2-3. 行政の質を高める「内部のチェック機能」

行政不服審査法のもう一つの重要な目的が「行政の自己統制」です。
これは、行政が自らの判断に行き過ぎや誤りがないかを、内部でチェックし、是正する機会を持つことを意味します。
特定行政書士による不服申立ては、行政を一方的に「敵に回す」行為ではありません。むしろ、行政に対して「内部で誤りを是正する機会」を与え、「より良い行政の実現」に貢献する活動なのです。司法(裁判所)から違法性を指摘される前に、行政が自らを見直すきっかけを作る、建設的な役割を担っています。

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市民の権利救済と行政の自己改革。この両輪を担う特定行政書士は、具体的にどのような問題に対処できるのでしょうか。3つの実例を見ていきましょう。


3. 【具体例で見る】特定行政書士は、こうして市民を救う!

特定行政書士は、法律や制度の専門知識を武器に、理不尽な行政処分に立ち向かいます。ここでは、実際にあった3つの裁決例を物語形式で紹介します。

3-1. 事例①:理由が不当な「不支給決定」を取り消したケース
【相談内容】
「自分に合う病院が遠くにあるという理由だけで、医療費の支援を打ち切られてしまったんです…」
【特定行政書士の対応と主張】
制度を定めた法律には「遠隔地だから」という理由で不支給にする規定はないことを指摘。「制度の趣旨・目的」という曖昧な理由ではなく、法に基づいた判断を求めました。
【結果】 審査の結果、特定行政書士の主張が認められ、「不当な処分」として不支給決定が取り消されました。
(出典:山形県平成29年11月14日裁決)
3-2. 事例②:不十分な説明しかしない「違法な処分」を正したケース
【相談内容】
「申請を出したら、不十分な説明のまま書類を返却され、一方的に処分をされてしまいました…」
【特定行政書士の対応と主張】
行政手続きには、適切なプロセスと十分な説明責任があることを主張。たとえ処分の判断自体に誤りがなくても、手続きが適正でなければならないと訴えました。
【結果】 「適正手続きの観点から」処分は取り消され、再度、適切な手続きを行うべきとの判断が下されました。
(出典:沖縄県平成30年7月31日裁決)
3-3. 事例③:申請を無視する「不作為」に対応したケース
【相談内容】
「必要な申請をしたのに、役所から何の連絡もなく、決定も通知もされずに放置されています…」
【特定行政書士の対応と主張】
メールによる申請も有効であり、行政庁は申請に対して「何らの処分もしないこと(不作為)」は許されず、書面で通知する義務があると主張しました。
【結果】 申請に対する行政庁の不作為が認められ、速やかに処分を行うべきとの判断が下されました。
(出典:鹿児島県平成29年5月11日裁決)

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これらの例のように、特定行政書士は、違法・不当な処分や不作為から市民の権利を守る重要な役割を担っています。しかし、彼らが活動するには一つの重要な条件があります。


4. もしもの時のために知っておきたいこと

特定行政書士に不服申立てを依頼したいと思っても、実は誰でもすぐに頼めるわけではありません。ここでは、依頼する際に知っておくべき重要なポイントを解説します。

4-1. 重要なルール:「行政書士が作成した書類」であること

特定行政書士が不服申立ての代理人となれるのは、原則として、その不服申立ての原因となった許認可申請などの書類を「(いずれかの)行政書士が作成した」場合に限られます。
これは、行政書士が関与した手続きについて、責任をもって最後までサポートするという制度の趣旨に基づいています。

ケース 不服申立ての代理
行政書士Aが申請 → 不許可 特定行政書士(AでもBでも可)に依頼 可能
自分で申請 → 不許可 特定行政書士に依頼 原則不可

では、もし自分で申請して不許可になってしまったら、諦めるしかないのでしょうか?

いいえ、解決策があります。
その場合、まず行政書士に依頼して、申請内容を見直した上で書類を作成し直し、「再申請」を行います。もし、その再申請でも不許可とされたならば、その手続きは「行政書士が作成した書類に係る」案件となるため、特定行政書士が不服申立ての代理人になることができるのです。

ただし、ここで非常に重要な注意点があります。
単に書類の形を整えて再申請するだけでは、「一度確定した行政行為の効力(公定力)に反する」として、再び不許可となる恐れがあります。特定行政書士に繋げるためだけの安易な再申請は認められません。必ず専門家である行政書士に内容を精査・改善してもらうことが不可欠です。

4-2. 不服申立てだけじゃない!特定行政書士の活躍の場

特定行政書士の役割は、市民の代理人として不服を申し立てることだけにとどまりません。 行政不服審査制度が公正に運営されるよう、行政の内部から制度を支える役割も期待されています。

審理員として
不服申立てがあった際に、処分を行った部署とは別の、中立的な立場で主張を審理する役割。
行政不服審査会等の委員として
学識経験者などで構成される第三者機関の一員として、審理員が行った審理内容が妥当かどうかをチェックする役割。

このように、特定行政書士は、市民の代理人としてだけでなく、行政手続きの専門家として、制度の公正性を内外から支える重要な存在なのです。

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5. まとめ:あなたの「困った」に寄り添う専門家

この記事では、特定行政書士という頼れる専門家の物語とその役割について解説してきました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
特定行政書士は、平成26年の法改正で生まれた、行政に対する不服申立てを専門に行うことができる行政書士です。彼らが担う核心的な価値は、大きく2つあります。

  • 市民の権利を守る
    行政による違法・不当な処分に対し、市民に代わって声を上げ、裁判よりも簡易で迅速な救済を目指します。特に、法律違反とは言えないまでも妥当性を欠く「不当な処分」にも立ち向かえる専門家として、理不尽に直面した市民の「最後の砦」となります。
  • より良い行政を実現する
    不服申立てを通じて、行政が自らの判断を見直す「自己統制」を促します。これは、市民と行政の間に立つ「懸け橋」として、行政手続きの円滑な実施と質の向上に貢献する、未来に向けた活動です。

もし、あなたが行政からの決定に疑問や不満を感じたとき、一人で悩む必要はありません。泣き寝入りするのではなく、「特定行政書士」という頼れる専門家がいることを、ぜひ覚えておいてください。

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