
💡 この記事の要点 (Key Takeaways)
不正は「悪い人」ではなく、魔が差す「環境」が引き起こします。性善説でも性悪説でもない「性弱説」に立ち、権限の分散と相互牽制(ダブルチェック)の仕組みを整えることこそが、社員を守り、会社を強くする経営者の「愛」です。
「うちの社員は家族同然だから、信頼している」
「性悪説に立って、社員を疑うような管理はしたくない」
中小企業の経営者様から、このような言葉をよくお聞きします。そのお気持ちは、私も経営者として痛いほどよく分かります。社員を信じる心は、間違いなく組織の土台です。
しかし、もしその「性善説」に基づいた信頼が、善良な社員の心に「魔が差す瞬間」を生む隙を与えているとしたら、どうでしょうか。
私が刑事時代に見てきた多くの事件は、根っからの悪人が起こしたものよりも、ごく普通の人が「これくらいなら大丈夫だろう」「誰も見ていないから」という、ほんの少しの気の緩みや心の弱さから犯してしまったものが大半でした。
この記事では、性善説でも性悪説でもない、「人は、仕組みや環境によって『弱さ』が引き出され、過ちを犯す存在である」という『性弱説』の観点から、社員と会社を同時に守るための、不正を起こさせない組織の仕組み(内部統制)について解説します。
あなたの会社は大丈夫?不正が起きる組織の“3つの温床”
不正や不祥事は、特定の「悪い人間」がいるから起きるのではありません。多くの場合、不正を誘発してしまう「環境」や「仕組み」にこそ問題があります。あなたの会社に、以下のような“温床”は存在しないでしょうか。
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権限の過度な集中(ブラックボックス化)
「あの人に任せておけば、全部うまくやってくれるから」
特に、創業時から会社を支えてきたベテラン社員や、経理・総務を一人で担う担当者に、業務と権限が過度に集中しているケースは極めて危険です。発注から支払い、入金管理までを一人で完結できる状況は、不正の温床そのものです。本人がどれだけ誠実であっても、それは性善説という名の「丸投げ」であり、経営者の管理放棄に他なりません。
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形骸化したルールと不透明な評価
経費精算のルールはあるものの、誰もチェックしておらず、申請すれば素通り。人事評価の基準が曖昧で、社長の「鶴の一声」で全てが決まる。
このような組織では、社員の心に「真面目にやっても損をする」という不公平感が生まれます。そして、その不満が「これくらいなら、会社も許してくれるだろう」という、不正行為への自己正当化に繋がっていくのです。
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「信頼」という名の無関心
「社員を信じているから、細かいチェックはしない」という言葉は、一見聞こえは良いかもしれません。しかし、それは本当の信頼でしょうか。
もし、その無関心が原因で一人の社員が過ちを犯してしまったら、その社員の人生も、会社の信用も、そして残された他の社員の未来も、全てを壊しかねません。
本当の信頼とは、人が過ちを犯さずに済む「仕組み」を整え、安心して働ける環境を提供することではないでしょうか。
人を守り、会社を強くする内部統制の「3原則」
では、具体的に何をすればよいのでしょうか。大企業のような複雑なシステムは不要です。ここでは、中小企業だからこそできる、シンプルかつ効果的な「3つの原則」をご紹介します。この方法は、すでに実践し、効果が出ている方法ですので、ご安心ください。
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原則1:相互牽制(ダブルチェック)を業務に組み込む
これは、一人の人間に業務を完結させない、という単純明快なルールです。
経理: 請求書を発行する担当者と、入金を確認する担当者を分ける。現金管理: 店舗のレジ締めは、必ず二人一組で行う。発注: 一定金額以上の発注は、必ず上長の承認を得るフローにする。休暇: 経理などの重要業務の担当者には、年に一度、必ず長期休暇(最低5営業日以上)を取得させ、その間は別の人が業務を代行する(強制的な業務の可視化)。 -
原則2:ルールの明確化と運用の「見える化」
誰かの頭の中にしかないルールではなく、誰が見ても分かる「共通のルールブック」を作成し、運用します。
- 出張旅費や接待交際費など、判断に迷いやすい経費の基準を明文化する。
- 人事評価の基準を可能な限り具体的にし、評価者と被評価者の間で面談の機会を設ける。
- 「なぜこのルールがあるのか」という目的や背景を全社員で共有する。
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原則3:定期的な「業務の健康診断(監査)」を実施する
年に一度、会社の業務プロセスに問題がないか、社外取締役や専門家などの第三者の視点を入れてチェックする機会を設けます。
- 在庫の数が、帳簿と合っているかを定期的に実地棚卸しで確認する。
- 会計の専門家に、月次決算のプロセスに不正の入り込む隙がないかレビューしてもらう。
これは、社員を疑うための「査察」ではありません。会社の健康状態を定期的に確認し、病気を未然に防ぐための「健康診断」です。
まとめ:内部統制とは、経営者による「愛」である
内部統制の仕組みを構築することは、社員を性悪説で縛り付けることでは断じてありません。それは、誰もが持つ「弱さ」を理解した上で、社員が道を踏み外すことなく、安心して、誇りを持って働ける環境を整えるという、経営者による最大の「愛」であり、責務であると私は考えます。
トラブルが起きてからでは、失うものがあまりに大きすぎます。
あなたの会社を、誰もが安心して、真面目に働ける場所にしませんか。まずは、あなたの会社の「健康診断」から。組織作りのパートナーとして、ぜひ私にご相談ください。犯罪捜査の視点と、企業経営者としての視点、そして良き友人としての視点から一緒に解決方法を探します。
