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外国人・国際関連業務

外国人犯罪の実相と本質

2025/9/25
田原 靖弘
10 min read

💡 この記事の要点 (Key Takeaways)

「外国人が増えると治安が悪化する」は統計的根拠に乏しい誤解です。外国人労働者が急増する一方で、刑法犯検挙人員は減少傾向にあります。犯罪の背景にある「借金」と「労働環境」という構造的問題こそが、解決すべき本質的な課題です。

1. はじめに:私たちの隣人としての外国人技能実習生

日本の少子高齢化とそれに伴う労働力不足を背景に、日本で暮らす外国人の数は年々増加しています。最新の統計によれば、在留外国人数は約377万人(令和6年12月末時点)、外国人労働者数も約230万人に達し、いずれも過去最高を記録しました。国は外国人を「労働力」として捉えがちですが、全国知事会が提言するように、地方自治体の視点では彼らは日本人と同じ「生活者」であり、大切な「地域住民」です。彼らは私たちの社会を支える重要な隣人となっています。

在留外国人数

約377万人

(令和6年12月末時点)

外国人労働者数

約230万人

(過去最高)

しかし、彼らを受け入れる仕組み、特に「技能実習制度」には多くの問題が指摘されています。今回は、この制度が抱える問題、とりわけ実習生が来日時に背負う「借金」がなぜ失踪や犯罪につながってしまうのか、その構造を分かりやすく解説し、解決への道筋を探りたいと思います。

では、技能実習生が直面する問題の根本には何があるのでしょうか。まずは、彼らが来日する際に背負うことになる「借金」の構造から見ていきましょう。

2. 問題の根源:「借金」という見えない鎖

外国人技能実習制度が抱える最も根深い問題の一つは、多くの実習生が来日する前に、母国の「送り出し機関」に高額な費用を支払わなければならない点です。これは私自身、捜査現場で直接当事者から何度も聞かされてきたことでもあります。これにより、彼らは夢や希望だけでなく、多額の借金を抱えて日本の土を踏むことになります。

ある政治家によるレポートによれば、例えばベトナムでは、従来150万円程度の資金を用意しなければ技能実習生になることができませんでした。これは、現地の平均的な年収(日本円で約49万円前後)からすれば非常に大きな金額です。

ベトナムの例

来日のための費用

約150万円

VS

現地の平均年収

約49万円

もちろん、問題解決に向けた動きもあります。ベトナム政府は、送り出し機関が徴収できる費用の上限を約60万円に設定するなどの対策を講じました。しかし、依然として様々な名目で実習生に過度な負担を強いる悪質な機関も存在しており、この「借金」という見えない鎖が、彼らを精神的にも経済的にも追い詰める最初の引き金となっています。

そして、多額の借金を背負って日本に来た実習生を、次に待ち受けているのが厳しい労働環境です。この借金と労働環境が、どのようにして失踪や犯罪という深刻な事態につながっていくのかをみていきましょう。

3. 借金が引き起こす連鎖:低賃金、失踪、そして犯罪

借金返済という大きなプレッシャーを抱えて来日した実習生は、しばしば厳しい労働環境に直面します。これが、失踪や犯罪へとつながる負の連鎖を生み出しています。

低賃金と抜け出せない環境

実習生が直面する大きな問題は、給与水準の低さです。ある実習生は「月に15万円はもらえると聞いていたが、実際は6万円ほどしか手元に残らなかった」と語ります。母国で多額の借金をしてきた彼らにとって、約束された収入が得られないことは、人生設計を根底から揺るがす深刻な事態です。もちろん法的には認められていませんが、残念ながらこのような事実が存在するのが実情です。

さらに、特に建設業や農業では天候によって仕事が休みになり収入が不安定になるケースがある一方、技能実習生は原則として転職が認められていません。そのため、劣悪な労働環境や低賃金に不満があっても、その職場から自力で抜け出すことは極めて困難なのです。

失踪から犯罪へ

そして、この「多額の借金」と「低賃金」という二重苦が、実習生を失踪に追い込む最大の要因です。彼らは借金を返すため、そして家族に仕送りをするために、より高い賃金を求めて現在の職場から姿を消し、不法就労へと移行せざるを得ない状況に追い込まれます。その状況は深刻で、2017年だけでベトナム人技能実習生の失踪者数は3,751人にものぼりました。

さらに、不法就労先でも安定した生活が送れるとは限らず、生活苦から万引きなどの比較的軽微な犯罪に手を染めてしまうケースも報告されています。同じく2017年には、ベトナム人による刑法犯検挙人員が398人に達しましたが、その多くは凶悪犯罪ではなく、万引きであったとされています。

① 二重苦

「多額の借金」と「低賃金」

"月の手取りが6万円だった…"

原則、転職は認められない

② 失踪・不法就労

より高い賃金を求めて…

3,751人

(2017年ベトナム人技能実習生失踪者数)

③ 犯罪

生活苦から万引きなど軽微な犯罪へ

398人

(2017年ベトナム人刑法犯検挙人員)

もちろん、こうなることに対して彼ら自身の責任によるところも大きいといわざるを得ないものであり、現場では、私もそのように説いてきたつもりです。しかし、一方で、このように技能実習制度の構造的な問題が一部の外国人を犯罪に追い込んでいる側面は否定できません。また、これを「外国人全体の犯罪率が高い」と結論づけるのは早計です。次に、統計データ全体から日本の外国人犯罪の実態を冷静に見ていきましょう。

4. データで見る日本の外国人犯罪の実態:誤解と真実

「外国人が増えると治安が悪化する」という懸念を耳にすることがありますが、データはそのような単純な因果関係を示していません。データ上、日本の治安はむしろ改善しているという解釈をとることもできるでしょう。

日本の治安は『統計上』、著しく改善

まず大前提として、日本の治安は、『統計上』、著しく改善しています。日本の刑法犯認知件数は、2002年の約285万件をピークに一貫して減少し、2021年には約57万件と戦後最少レベルになりました。これは、在留外国人が増加してきた期間と重なります。つまり、外国人労働者が増えている期間に、日本の治安は統計上むしろ良くなっていると解釈できるのです。

では、日本人と外国人の犯罪率を比較するとどうでしょうか。冷静に分析するための3つのポイントを解説します。

ポイント1:犯罪率の単純比較

令和6年版警察白書のデータによると、令和5年(2023年)の外国人の犯罪率(検挙人員ベース)が約0.239%(千人当たり2.39人)であるのに対し、日本人の犯罪率は約0.147%(千人当たり1.47人)です。

外国人

0.239%

日本人

0.147%

確かに外国人の犯罪率は日本人より少し高いですが、その差は0.1%程度であり、突出して高いわけではありません。しかし、この単純比較には注意が必要です。

ポイント2:年齢構成の「からくり」を解き明かす

犯罪率は、国籍を問わず一般的に若年層(20~30代)で高くなる傾向があります。日本の在留外国人人口は、日本人全体に比べてこの若年層の割合が非常に高いという特徴があります。ある専門家による分析では、この年齢構成の違いを統計的に補正すると、日本人と外国人の犯罪率の差はさらに縮小します。そして最も重要な点は、補正後の犯罪率の差は、日本人社会の中にすでに存在する差よりも小さいということです。例えば、日本国内で最も犯罪率が高い兵庫県と最も低い岩手県では、その差が外国人との差よりも大きくなります。同様に、日本人の20代と70代の犯罪率の差も、外国人との差を上回ります。つまり、外国人との犯罪率の差は、私たちが国内の地域差や世代差として許容している統計的なばらつきの範囲内に収まるものとの分析結果が公表されています。これは、客観的な数値に基づいた客観的な分析手法を用いていることから一定の信憑性が認められるのではないでしょうか。

ポイント3:人口増加と犯罪件数の関係

もう一つ重要な点は、外国人人口が急増した一方で、外国人の犯罪検挙者数はむしろ減少しているという事実です。1990年代初頭に約130万人だった外国人人口は、2023年には約370万人へと3倍近くに増加しました。しかし、外国人の刑法犯検挙人員数は、1994年の約1万2千人に対し、2023年には9,726人と、むしろ減少しています。このデータは、「外国人が増えると治安が悪化する」という考えに直接的な因果関係がないことを、客観的に示していると考えることができます。

外国人人口

約3倍に増加

刑法犯検挙人員数

むしろ減少

これらの統計が示す通り、一部で報道される技能実習生の事件は、前述した制度の欠陥から生まれる悲劇であり、外国人全体の傾向を示すものではありません。ここに関しては、私の経験上も大きくずれるものではありません。問題の核心は個人の属性ではなく、彼らを受け入れる社会の仕組みにあるといえるのではないでしょうか。最後に、これらの問題を解決し、真の共生社会を築くためにどのような議論が行われているのかを紹介します。

5. 解決への道筋:多文化共生社会の実現に向けて

技能実習制度が抱える問題は、米国務省の「人身取引報告書」などで国際社会からも繰り返し指摘されてきました。こうした背景を踏まえ、日本社会もようやく制度の抜本的な見直しに動き出しています。技能実習制度に代わる新しい「育成就労制度」の導入が決定され、より人権に配慮し、労働者としての権利を保障する仕組みへの転換が図られようとしています。しかし、制度改革だけで問題がすべて解決するわけではありませんし、事実、育成就労制度については、監理団体や登録支援機関らの実務家からも、肯定的な見解だけでなく、否定的な見解も飛び交っている状況であります。そうしたなか、全国知事会や専門家は、社会全体で取り組むべき課題として、以下の点を提言しています。

国の責任の明確化

国は外国人を単なる「労働力」ではなく、地域で暮らす「生活者」として捉え、多文化共生社会の実現に向けた司令塔としての役割を果たすべきである。そのために、多文化共生のための基本法を制定し、省庁の垣根を越えた横断的な組織を設置することが求められる。

受け入れ環境の整備

これまで地方自治体任せにされてきた受け入れ環境の整備は、国が責任を持って主導すべきである。具体的には、日本語教育の機会提供、多言語対応の相談窓口、医療通訳の配置といったインフラを全国的に整備し、そのための永続的な財政支援を行う必要がある。

事業者と地域社会の役割

外国人を雇用する企業は、適正な労働条件と生活環境を提供することが不可欠である。単なる労働力としてではなく、共に働く仲間として尊重する姿勢が求められる。私たち地域住民は、偏見を持たずに彼らを受け入れ、文化交流や地域の防災・防犯活動などを通じて相互理解を深めることが重要である。外国人住民も日本人住民も、同じ地域の一員として協力し合う「多文化共生」の意識を育てていく必要がある。

結論として

本稿で見てきたように、外国人技能実習生が直面する問題の根源は、決して「彼らが外国人だから」なのではなく、むしろ日本(国)が作り出した制度の構造的な欠陥と、受け入れ社会側の準備が整っていないことにあります。

私たちが本当に問うべきは、「日本人か、外国人か」という線引きではありません。大切なのは、国籍というフィルターを外し、その人個人と真摯に向き合うことです。

なぜなら、人がどこで生まれるか、どの国籍を持つかは、本人の意思や努力で選べるものではないからです。国籍法違憲訴訟(最大判平成20年6月4日)や非嫡出子相続分規定事件(最大判平成25年9月4日)が示したように、そのような自らの意思や努力によって変えることのできない事柄、自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由に人を区別することは、私たちの社会が最も避けるべき不合理に他なりません。

私たちが見るべきは、変えられない「国籍」ではなく、その人が持つ「個性」や「誠実さ」です。お互いの文化や風習を理解し、尊重し合いながら、同じ目標に向かって共に歩んでいけるパートナーとなり得るか。その点が、私たち双方にとって最も重要なことではないでしょうか。

偏見を乗り越え、一人ひとりの「隣人」として彼らを受け入れ、共に安心して暮らせる社会を築いていくこと。その前向きな姿勢こそが、これからの日本の未来にとって不可欠だと私は思います。

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