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契約書関連

元刑事が教える、トラブルを未然に防ぐ契約書作成の勘所

2025/9/18
田原 靖弘
3 min read

💡 この記事の要点 (Key Takeaways)

契約書は企業を守る「予防法務」の要です。雛形の安易な流用は「一般条項の不備」「実態との乖離」「一方的な不利」という3つの罠を招きます。元刑事が教える「最悪の事態」を想定した契約書作成術で、トラブルを未然に防ぎましょう。

「あの時は、信頼関係があるから大丈夫だと思ったのに…」
「まさか、こんなことで『言った、言わない』の泥沼にはまるとは…」
「この文章はそういう意味だとは思わなかった…」
「契約書あるから大丈夫だと思っていたのに…」

中小企業の経営者様から、このような痛切なご相談を受けることが少なくありません。日々の経営に追われる中で、つい後回しにされがちな「契約書」。しかし、その一枚の紙を軽視したことが、後に会社の存続を揺るがしかねない大きなトラブルの火種となるのです。

契約書は、相手を縛り付けるための堅苦しいものではありません。それは、お互いの約束事を明確にし、良好なビジネス関係を長く、安心して続けるための「共通のルールブック」です。

刑事の仕事が「事件が起きた後」の対応であるのに対し、契約書の作成は「事件が起きる前」に会社を守る、究極の予防策です。事前の一手は事後の百手に勝る。この記事では、元刑事としての経験から、人間の心理や起こりうる最悪の事態を想定し、トラブルを未然に防ぐための契約書作成の「勘所」をお伝えします。

雛形(テンプレート)に潜む、3つの「見えない罠」

まず、絶対に避けていただきたいのが、インターネットで検索して見つけた雛形を、内容をよく確認せずにそのまま使うことです。一見、それらしく整っている雛形には、見過ごされがちな3つの「罠」が潜んでいます。

罠1:「一般条項」という名の時限爆弾

損害賠償の範囲、契約解除の条件、裁判になった場合の管轄裁判所…。これらは「一般条項」と呼ばれ、地味なため読み飛ばされがちです。しかし、いざトラブルが発生した時、自社を守る最後の砦となるのが、まさにこの部分です。ここの詰めが甘い契約書は、肝心な時に全く役に立たないものと言わざるを得ません。

罠2:「あなたのビジネス」が考慮されていない

雛形は、あくまで不特定多数に向けた最大公約数です。あなたの会社のビジネスモデル、業界特有の慣習、今回の取引における特殊な事情などは一切反映されていません。個別の事件に同じ捜査方針など存在しないように、一つとして同じ取引は存在しません。取引の実態に合わせてカスタマイズされて初めて、契約書は意味を成します。

罠3:相手に有利な「不平等条約」

特に、取引先から提示された契約書を鵜呑みにするのは極めて危険です。被疑者の言い分を一方的に信じることがないのと同様に、契約書もまた、客観的かつ批判的な視点で精査しなくてはなりません。自社に一方的に重い義務やペナルティが課せられていないか、権利のバランスは取れているか。冷静に見極める必要があります。「取引先が大手だから」「取引先が、いつもこれでやってると言っていた」は要注意です。

会社を断固として守る、契約書作成の「3つの鉄則」

では、本当に「使える」契約書とは、どのように作成すればよいのでしょうか。私が常に意識しているのは、以下の3つの鉄則です。

鉄則1:常に「最悪の事態」を想定

刑事は、常に最悪の事態を想定して現場に臨みます。契約書作成も全く同じです。

  • 相手が代金を期日通りに支払わなかったら?
  • 納品された商品に欠陥があったら?
  • 自社が提供した秘密情報が外部に漏洩したら?

考えたくないかもしれませんが、起こりうる全てのネガティブなシナリオを洗い出し、「その時、どうするのか」を具体的に定めておく。この「平時の備え」こそが、有事の際に会社と従業員を守る防波堤となります。重ねて申し上げますが、事前の一手は事後の百手に勝ります。

鉄則2:「曖昧な言葉」を徹底的に排除

「〜については、別途誠意をもって協議する」「可及的速やかに対応する」
こういった一見丁寧に見える表現が、トラブルの最大の温床です。解釈の余地がある言葉は、お互いの都合の良いように解釈され、紛争の火種となりえます。

犯罪事実が5W1Hで事実を記述するように、契約書も「いつまでに」「誰が」「何を」「いくらで」「どうするのか」を、誰が読んでも一つの意味にしか解釈できないレベルまで、具体的かつ定量的に落とし込む必要があります。

鉄則3:権利だけでなく「義務と責任」も明確に

自社の権利ばかりを主張する契約書は、相手に不信感を与えます。自社が何をすべきか、どこまで責任を負うのかという「義務」の範囲を明確にすることで、逆に相手からの信頼を得ることができ、健全な取引関係の土台が築かれます。お互いの責任範囲を明確にすることこそ、無用な紛争を避けるための最も誠実な態度です。

まとめ:契約書は、経営者の「覚悟」の現れである

たかが一枚の紙、されど一枚の紙。
細部にまで魂を込めて作られた契約書は、あなたのビジネスに対する真摯な姿勢と、取引先、そして従業員の生活を守り抜くという経営者としての「覚悟」の現れです。それは、約束事を重んじ、信義を尽くすという、私が重んじる「武士道の精神」にも通じるものだと考えています。

当事務所では、単発の契約書作成・レビューはもちろんのこと、日々の経営に潜む法的リスクから会社を継続的に守る「法務顧問サービス」にも力を入れています。いつでも気軽に相談できるパートナーとして、あなたの事業に「伴走」し、未来を切り拓くお手伝いができれば幸いです。


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